嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉、和葉!!」

「んっ……」


体を揺さぶられる感覚で重たい瞼が開いていく。
目を開けばお母さんの顔が見えてきた。


「どうしたの和葉!?貴方顔が真っ青よ」

「あっ……別に何も……」


口ではそう言ったけれど実際は駄目だった。
目すら開けていられない。
閉じていく瞳に逆らわず、視界を遮ろうとした時、頭の中に声が走った。


「(病院なんかに行かないでよね、お金が掛かるじゃない)」


不思議な感じがした。
いつも聞いている心の声。
生まれた時からずっと付き合ってきたこの力。
だけど。
これ以上に恐ろしいと思った事はなかった。

何で。
だって目を合わせていないのに。
心の声が頭の中に……。

そう考えていれば頭の中に一気に沢山の声が入ってくる。


「(あーウザいーアイツと会いたくないっつーの)」

「(マジで死ねよ)」

「(キモイなー喋るだけで腐るわ)」


全部違う人の声。
男も女もバラバラで。
多分年齢だって違う。


「あっ……」


頭がおかしくなるかと思った。
目の前にはお母さんしかいない。
家の中には家族しかいないはずだ。
それなのに何で知らない人の心の声が頭に響くの?


「和葉?(何よこの子は……気味が悪いわね)」


心配そうな顔をするお母さんの裏に籠められた想いにズキンと胸が痛くなった。
鋭いナイフでズタズタに切り裂かれる様な感覚。

気味が悪いという言葉が勝手に脳内変換をしていく。

“化け物”

そう言われている様な気がした。
心配そうなその顔も私を蔑んでいる様に見えて。
冷静ではいられなくなっていく。
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