嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「やめてっ……もうやめてっ……」

「和葉……?大丈夫?(様子が変だわ……薬でもやってるんじゃないでしょうね……)」


耳を押さえて、目を瞑って。
この世界から自分を切り離そうとするけれど。
そんなの全く無意味で、頭の中にはお母さんの声は勿論、心の声も、誰かの心の声も響き渡っていた。


「(可愛い子ぶってんじゃねぇぞ!ブス!)」

「(早く決めろよ優柔不断が)」

「(あー早く帰りたいなー)」


醜い裏の顔。
その全部が私にはハッキリと届いて。
聞きたくないのに、嫌なのに。
それを拒否する事も出来ないんだ。


「もう……いやっ……聞きたくないの……」


壊れたかの様にブツブツと同じ言葉を繰り返す。
そんな私を見ながらお母さんは顔を引き攣らせていた。
表向きは心配をしている。
でも、大嫌いな醜い声が頭の中で大きく響くんだ。


「和葉!(何なのこの子……気持ちが悪い!)」


もう、駄目だと思った。

何度も壊れかけた心。
その度にお兄ちゃんが、正輝が、私を救ってくれた。
砕かれて引き裂かれた心を、バラバラになった心を。
1つずつ集めて、くっつけて、元通りにしてくれた。
あの2人がいたから、私は今ココにいる。
そう言っても過言ではない。

だけど、また。
私の心は切り刻まれていくんだ。

今までより酷く醜く。


「っ……」


これ以上、闇に堕ちたら私は引き返せなくなる。
なけなしの理性の中でそう判断した私はお母さんの腕を振り払って部屋を飛び出した。
制止の声を無視して、すぐ近くの部屋に入り込む。
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