嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「嘘……嘘よ……」


信じたくない。
信じられる訳がない。
馬鹿みたいに何度も同じ言葉を繰り返す。
嘘だと言ってよ。

だって。
お兄ちゃんはずっと私を守って来てくれた。
私の心の声の事を知ってからも何ひとつ変わらなくて。
いつも一緒で、助けてくれて。
それなのに……。


「和葉?どうした?(ほら泣けよ、俺の前で、いつもみたいに喚けよ)」


聞こえてくるのは間違いなくお兄ちゃんの声だ。
頭に響くその声は大好きな声なはずなのに。
いつもよりずっと怪しげで。
初めて、お兄ちゃんの裏の顔を見た気がした。
今まではそんな事なかったのに。
どうしていきなり……。

戸惑いながらもお兄ちゃんを見上げた。
でも、不思議な事にお兄ちゃんは私の目を見ようとはしなかった。
慣れた様に、上手く視線を逸らされる。


「大丈夫、和葉には俺がついているから。
(お前には俺だけがいればいい。さあ、今日も味あわせてくれ。
可哀想な妹、憐れなお前に優しくすれば、只ならぬ優越感が俺には生まれるんだ)」


頭に流れてくる声が他人事の様に聞こえてくる。
あまりにも衝撃を受けすぎて壊れてしまったんだ。
そう冷静に考えられるほど頭がおかしくなっていた。

そう言えば。
お兄ちゃんと目を合わせる時って。
お兄ちゃんが私を呼んで、何かを伝えるという場面が多かった。
ううん、寧ろそれしかないかもしれない。
お兄ちゃんは大丈夫、お兄ちゃんは私の味方。
そう思っていたからこそ私はお兄ちゃんの目を見ようとしなかったのかもしれない。
だから……。
今まで気が付かなかったんだ。
お兄ちゃんの本当の顔に。


「そっか……そうなんだ……」


情けない声が口から漏れていく。

お兄ちゃんは私が心配だった訳じゃない。
こんな醜い力を持って生まれてきた私を蔑んで、同情して。
そんな私を支える事によって1番近くで苦しむ私を見ていたんだ。
味方のフリをして、優しくして。
優越感に浸っていたんだ。
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