嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
理解をすれば簡単な事だった。
こんな私を、人の心の声が聞こえる私を。
誰も受け入れてくれる訳がない。

だって醜いのは心の声なんかじゃない。
それを聞く事が出来る私の方が異端なんだ。

醜くて、気持ちが悪いのは私の方だ。
私の存在自体がおかしいんだ。


「はっ……あははっ……」


ずっと、ずっと。
目を逸らしてきただけ。

気持ち悪い力。
醜い力。
化け物と呼ばれてもおかしくない私。

それが分かっていたのに。
自分を守る為に、他人の心の声を醜いと言って。
自分を正当化しようとしていた。


「馬鹿みたいっ……」


絞り出した声は哀しみが籠っているはずなのに。
涙すら出てこないんだ。

スルリとお兄ちゃんの手から抜け出して、部屋から飛び出る。
虚ろな目で廊下の先を見つめながら重たい足を動かした。

向かったのは自分の部屋で。
鍵を掛けて、布団を被って、目を瞑った。

外から聞こえてくるお母さんやお兄ちゃんの声。
何度も扉を叩かれるけれど。
決して私は扉を開けようとはしなかった。

どんなに目を固く瞑っても。
頭の中には誰かの声が聞こえてくる。


「(早く出てきなさいよ、面倒臭いわね)」

「(和葉、どうして俺から逃げるんだよ)」


お母さんとお兄ちゃんの心の声。


「(うざっ……ってかサムッ!!)」

「(あーあ……明日も学校ダルイなー)」


知らない人の声。
頭の中で響き続ける声は消えないけれど。

もうどうだって良かった。
何も感じないもの。

苦しいとか、哀しいとか。
そういった感情が何も浮かんでこなかった。
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