嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「き……君は一体……何で心の声が……」


恐ろしいものを見る様な目でお兄さんは私を見ていた。
こんなのは想定内だった。
それを覚悟した上でココに来たのだから。


「……普通の高校生です、って言いたい所ですけど……。
生憎私は……普通じゃないです……」


にっと笑顔を作って空を見上げた。

空や景色だけは。
誰にでも平等で。
そんな綺麗なモノを見るのが好きだった。

だけど今日の空は少し哀しそうに見えた。
もう暗くなりかけていたからそう思うだけかもしれない。
だけど、それとは違う様に感じたんだ。
まるで私の心を表しているかの様だった。


「普通じゃない……?」

「はい……私は……」


グッと拳を握りしめて。
直ぐに力を抜いた。

一瞬だけ強く風が吹き荒れた。

髪が舞い上がり私の頬を撫でた。

それに背中を押される様に。
いや、諦めた様に私は頬を緩めた。


「人の心の声が聞こえるんです」


自分の口から出た言葉。
なのにそれは現実味が帯びていない嘘みたいな言葉。


「そ、そんな事……出来る訳……!!」

「信じられないですよね。
それが普通の反応だと思います」


哀しくはない。
だって当然の結果だから。

人の心の声が聞こえる。
そんなのはドラマや漫画、作り物の世界でしかあり得ないもん。

信じる方がおかしい。
でも……。


「正輝は疑いもしなかった。
私の事を信じてくれたんです」

「……」

「こんな馬鹿げた話を、嘘みたいな話を彼は受け止めてくれた。
あんなにイイ人を他に見た事がない。
私にとって正輝は……凄く大切な人なんです」


ぎゅっと唇を結んでお兄さんを見つめた。
今にも泣きそうだった。
でも、泣きたくなんかなかった。
お兄さんの前で涙を流したくなかったんだ。
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