嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「そんな大切な人が苦しむ姿を見たくないんですっ……。
お兄さんは正輝にとって唯一の理解者だと思うから!
だから正輝を傷付けないで下さいっ……お願いします……!!」


ベンチから立ち上がり深く頭を下げた。
キミの、正輝の為なら。
頭だって下げられる。
何度だって構わない。
キミの傷ついた顔を、もう見たくはない。
だから……。


「はっ」


そんな私の想いをお兄さんは受け止めてくれるどころか鼻で笑ったんだ。
ゆっくりと顔を上げれば馬鹿にした様に笑うお兄さんが目に映る。


「大切な人?
笑わせるなよ……あんな奴の為に頭を下げるなんて馬鹿じゃないか?」

「……」

「アイツはな……俺から全てを奪ったんだ」


お兄さんはグッと歯を食いしばって私を睨みつけた。
でも、その視線の先は目の前の私ではなくて。
ココにはいない正輝を捕えていたのだろう。


「アイツが生まれてきたから両親はずっとアイツを愛してきた。
年が離れているとはいえ、まだ8歳だった俺は嫉妬したよ。
俺よりずっと愛されて、大切にされる正輝に……。
そりゃあ、弟だし俺だってアイツの事が好きだったさ。
……始めはな……」


お兄さんは手のひらを握りしめて俯いた。
それでも噛みしめる様に言葉を放つ。


「アイツは何をやっても天才だった。
勉強も、スポーツも。周りの目を惹く力もあって信頼も厚かった。
面倒臭がり屋で無口な所が欠点だったが、そんな事は誰も気にも留めない。
アイツはいつだって誰かに期待されて、愛されて……。
幸せいっぱいの生活を送ってきたんだ。
……俺とは違って」


突然と笑いだすお兄さんを見ながら私は黙ったまま話を聞いた。


「何をやってもアイツと比べられる。
俺の方が年上なのにな……何ひとつアイツには敵わなかった……」

「……」

「親は次第に正輝だけを可愛がった。
まあ、あの人たちは平等に愛してるつもりかもしれないけどよ。
分かるんだよ、明らかに目が違うんだ。
俺と正輝を見る時の目が」

「お兄さん……」


あまりにも寂しそうな声に私は手を伸ばした。
どうしていいか分からず、でも、放って置けなくて。
その肩に手が触れようとした時だった。
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