嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「アイツ等は俺をゴミクズを見る様な目で見てくるんだ。
今の君と同じ様にな!!」


ガシリと掴まれた腕。
その力は強くて振り払う事も出来なかった。
驚いていればお兄さんは私をベンチに座らせ、押さえつける様に上にのってきた。


「お兄さん……落ち着いて下さい!!
誤解です!私だってご両親だってそんな目で見てなんかいない!」


必死に呼びかけるけれどお兄さんには私の声なんて届いていない。
彼の目には私なんか映っていない。
私を通して正輝を見ているんだ。


「アイツが生まれて来なかったら俺は幸せな人生を送っていた。
親の愛も期待も、全部俺に向けられてたはずなのに……!!」


痛いくらいに押し付けられる体。
押し返そうにもビクともしなくて。
男と女の差を見せつけられてしまう。


「あなたはちゃんと……愛されてるはずです……」

「君に何が分かる?
幸せな家族に囲まれた君に何が分かる……?」


幸せな家族。
その言葉に大袈裟なくらいに肩が揺れた。

真っ先に浮かんだのはお兄ちゃんの顔。
いつも優しかったお兄ちゃん。
私を守ってきてくれたお兄ちゃん。
でも、それは偽りの姿で。
本当は私の事なんて大嫌いなんだ。
自分の事を高めてくれる道具としか見ていない。

お父さんやお母さんだって。
自分の事ばかりで、私の事なんか見ていない。

言いたい事だって口に出さずに心で全部留めて。

そんなの本当の家族じゃない。
幸せな家族なんかじゃない。


「私だって……幸せな家族なんかじゃ……ないですよ」


さっきまで抵抗していた力が一気に抜けていく。
もうそんな気力すらないんだ。


「和葉……ちゃん……?」


お兄さんは戸惑った顔で私を見降ろしていた。
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