嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「私の家族はいつだってバラバラですよ。
皆違う方を見ているくせに、本当の想いを隠して仲の良いふりをしているだけ。
私は誰にも必要となんかされていない……何の為に生まれてきたかも分からない!
でもあなたにはいるじゃないですか……お兄さんを必要としてくれる人が」

「俺を必要としている人……?」

「正輝です。
彼はあなたの事を誰よりも必要としている」


今はただ長年の想いに憑りつかれているだけだ。
お兄さんは正輝の事を恨んでいるとは言っているけれど。
でも、本当は羨ましかっただけだと思う。
きっといつか分かり合える日が来るから。


「アイツに必要とされても嬉しくなんかない!!」


グッとベンチに押し付けられた。
固いベンチに体がぶつかってキシキシと骨が軋む。


「お兄さ……」

「アイツが事故に合って、嘘がつけなくなって。
正輝の周りからは人はいなくなった。
そりゃあそうだよな?人間なんて建前がなければやっていけない!
馬鹿正直に何でもかんでも言っていたら周りから浮くに決まっている」


お兄さんは怪しい笑みを浮かべて目を細めた。
正輝にはまだない大人の色気。
場違いなのにお兄さんに見惚れてしまう。


「俺は嬉しかったんだ。
これで漸く釣り合いが取れる。
アイツはこれから俺と同じくらい苦しむだろうと思った。
そして俺の思い通りに周りからの期待や信頼は消え果て。
親は同情の目でアイツを見た。
なのに……正輝は苦しむどころか平然としていた。
君に会ってからは特に……毎日が楽しそうだったよ」


ギリッと歯を食いしばってお兄さんは私を睨みつけた。
でもすぐにフッと頬を緩めた。


「もし……君が俺のモノになったらアイツは苦しむだろうな」

「何を言って……」

「俺はアイツが苦しむなら何でもやってやる。
例え、誰かを傷付けてもな」


そう言ってお兄さんの手が私の頬に触れた。
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