嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「何を言って……好きな訳ないだろう!?」

「だったら何で……そんなに哀しそうな顔をするんですか?」

「哀しそうな……顔……?」


お兄さんは気が付いていないみたいだった。
自分が今どんな顔をしているのか。


「はい、今にも泣きそうで……必死に堪えてる顔」

「……さっきから君は可笑しい事を言うな。
俺が正輝を好きなら、どうして苦しめる様な事をするんだよ」


お兄さんは鼻で笑っていたけれど。
やっぱり哀しそうな顔をしたままだった。
必死に平気な振りをしているけど、私には分かってしまうんだ。


「お兄さんの時間は8歳で止まったままなんじゃないですか?」

「え……」

「正輝が生まれて、嬉しいと言う気持ちの反面。
両親の愛情を奪われた哀しみがあって……それを今でもずっと引きずっている。
正輝を憎むのは自分の苦しさを理解して欲しいから。
それで、もう1度……ちゃんとした家族になりたいからなんじゃないですか?」


ベンチから立ち上がり、お兄さんを見下ろした。
戸惑うその顔からはさっきの妖艶な笑みは綺麗に消えていた。


「(そんな訳ない、俺は……正輝が嫌いで……家族が嫌いで……)」


混乱をするお兄さんは立つことを忘れて地面に座り込んでいた。
さっきまでの余裕たっぷりな彼の姿なんて微塵もない。
きっと、方法を間違えただけ。
お兄さんは本当は凄くイイ人だと思うから。
ただ寂しかっただけだよね?
いくら年が離れた兄だからと言って、両親の愛情は欲しくない訳がないもん。


「お兄さん」


私は彼に近付きしゃがみ込んだ。
お兄さんの目線と合わせる為に。


「……」


彼は歯を食いしばりながら黙り込んでいた。
喋る余裕すら今のお兄さんにはないんだ。
でも、視線だけは私に向けてくれる。
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