嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
目を合わせなくても、心の声が聞こえる様になってから。
私の居場所は何処にもなくなったんだ。

だって、誰もいない所にいても。
関係なく聞こえる誰かの心の声。

どんなに綺麗な景色を見ても。
その心の声が私から全てを奪っていく。


「もうどうだっていい」


そう思っているのに。
心の片隅では苦しみたくないと思っている自分がいる。

もう感情なんて消えてしまった。
何も感じない、そう思っていたのに。

本当は凄く苦しいんだ。


心の声を聞く事が出来る私が何よりも醜い。
それは分かっている。

だけど。
どう頑張ったって。

心の声を聞かないで済む方法なんて見つからないし。
心の声を聞いても普通でなんていられない。

やっぱり。
醜いって思ってしまうんだ。

嘘をつく事も。
その世界で生きる事も。


「こんな世界に……何の意味もないっ……」


嘘つきな世界。
醜い感情が溢れ出ている世界。

そこには希望なんてない。

生きている意味なんかないんだ。


「ははっ……そう……か。
最初からこうすればよかったんだ……」


口から出たのは穏やかな声。
浮かべている笑顔もそれと同じくらい穏やかだろう。
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