嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
アレコレ考えて頭を悩ませる必要なんて最初からなかった。

だって。

この世界で生きていたくないのなら。
終わらせればいいんだ。
私の人生を。

この嘘つきだらけの世界はきっと永遠に変わらない。

私が死んでも、誰かが死んでも。
今この世界に存在している全ての人間が死んでも。

次の世代の人間が、また作り上げていくだろう。

嘘つきだらけの醜い世界は。
そうやって、永遠に続いていくんだ。


「……ふふっ……簡単じゃない……」


苦しまない方法なんて1つしかない。
何で初めからこうしなかったのだろうか。

気持ちがいやに軽かった。
砂浜を踏みしめて1歩を出せば、そこからは何の躊躇もなかった。

真っ直ぐと歩き海へと向かう。
お気に入りの靴が水に濡れようが、もうどうだって良かった。

細めた目に映るのは、視界いっぱいの青。
それしか目に入っていなかった。

頭の中には今でも、誰かの声が響いている。

だけどもういいんだ。

もう苦しまなくたっていい。

だってこの声とも、この世界とも。
もうお別れなんだから。

死んでしまえば何も残らない。
この胸の苦しみも、痛みも。
全部楽になるから。


「……冷たい……」


脹脛までが水に浸かったけれど。
それでも足を止めなかった。

私が目指すのはもっと先だから。

何処まで行けば楽になる?
波が生まれる所まで?

小さく笑いながら歩き続ける。

水を掻き分けながら、ただ真っ直ぐに。
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