嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……」


ふいに足が止まった。

理由は分からないけれど。

強い風が吹いたんだ。

その拍子に胸元に掲げられたネックレスが揺れた。


「……正輝……」


ハートのネックレス。
正輝がくれた私の宝物。
この海と同じ、青い色をした石を見つめれば、ズキンと胸が痛んだんだ。

キミはこんな時でも私を守ってくれようとしているの?
ココにいなくたって正輝の存在は大きくて。
私にとっては全てだった。

そんなキミとのお別れは何よりも辛い。
だけど、もうこうするしか方法はないの。

とっくの昔に限界は超えていた。
だけど無理やり、繋ぎ止めていたんだ。

私とこの世界を。

その1番の要因はキミだ。

正輝がいたから私は生きてこられた。

出逢って1年も経っていないけれど。
キミは私にとって大切な人。

短くても、正輝と過ごした時間は掛け替えのない宝物だから。


「ごめん……ごめんね正輝っ……」


キミを1人にしてごめん。
逃げ出してごめん。

私の事は嫌いになってもいい。
本当は嫌だけど、仕方がない事だから。

でも、どうか忘れないで。
私と過ごした時間を覚えておいて。

私が生きていた証を正輝の心の中に残しておいて。

キミの記憶の中に少しでも私がいたら。
それだけで私の人生は幸せだったって思えるから。


「……サヨナラ……」


小さく笑って再び歩き出す。
ネックレスを握りしめて冷たい海を突き進む。
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