嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「何だ知り合いだったのか!
じゃあ一ノ瀬の事は頼んだぞ白石!」

「は、はい」


佐藤先生は豪快に笑っていた。
皆の好奇の目が降り注ぐ中、私は一ノ瀬くんだけを見ていた。

だって今、皆の目を見たらどんな声が聞こえてくるかなんて分かり切っているから。
そんな声を聞きたくない。
何より、今は。


「和葉と同じ学校なんて驚いた」

「私も。でも嬉しいよ」

「……俺も」


少しだけ照れた様に笑う一ノ瀬くんが可愛くて私もつられて笑ってしまう。

彼と再会が出来た事を純粋に喜びたかった。
そう考えれば他の誰の事も目に映らなくて。
キミの方ばかりを見つめていた。

教壇で喋る佐藤先生に見つからない様に。

ヒソヒソと声を潜めながら2人で話す。

会ったのはこれで2度目だというのに。
一ノ瀬くんとの会話は不思議なほど弾んだ。

どれもこれも他愛のない話だけれど。
私にとっては楽しくて、ずっと頬が緩んだままだった。

誰かと話す事がこんなにも楽しいって事を初めて知った。

でもこれは他の誰かではダメなんだ。
一ノ瀬くんだからこそ、こうやって喋っていられる。


「一ノ瀬く……」

「正輝でいいよ」


ニカッと笑う彼に導かれる様に唇を動かした。


「正輝……?」

「うん」


もう1度、笑顔を浮かべてくれる一ノ瀬くん、もとい、正輝。
彼を見ていれば、さっき自己紹介で見せたあの冷たい目が想像出来ない。

幻だったのだろうか。
そう思うくらいに穏やかな笑みを浮かべる正輝を横目で見ながら頬杖を付いた。
< 21 / 336 >

この作品をシェア

pagetop