嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「何で死のうとしたの……?
何がアンタをそこまで追い詰めていたの?」


小さな声が落された。
震えるキミの体を見ると心臓が鷲掴みにされた気分になる。


「答えてよっ!!」


感情を剥き出しにしてキミは私の胸元に掴みかかってきた。
でも、ちっとも痛くないんだ。
震える両手がそれを物語っていた。


「ごめっ……」

「謝らなくていい!!
謝らなくていいから……死なないでっ……」


キミの想いが。
一気に私の心の中に溢れ出す。


「死なないでよっ……」


震えるその両手が私の体を揺さぶる。
されるがままにされていたのは何も考えられなかったから。

キミの瞳から流れる涙を見て体の力が奪われたからだ。

正輝が泣いたのは初めてだった。

何度かそういった雰囲気はあったけれど。
キミは決して泣く事はしなかった。

どんなに辛くてもキミはいつだって強く前を向いていた。
ぎゅっと結んだ唇や力強い目はいつだって未来を見つめていた。

だけど今は。
正輝の目には未来なんて映っていなかった。

その先にあるのは私の姿だけだ。


「正輝……」


キミは何も言わなかった。
と、言うよりは私の声なんて聞こえていないみたいだ。
その瞳から涙が落ちる度に胸がズキズキと痛むんだ。


「俺っ……アンタがいなかったら嫌だっ……。
アンタと離れるなんて嫌だけどっ……アンタが死ぬのはもっと嫌だっ……。
だから俺の隣にいなくてもいいっ……生きていてくれるならっ……それでいいからっ!」


しゃくりあげながらキミは必死に言葉を繋いでいた。
< 210 / 336 >

この作品をシェア

pagetop