嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「死なないでっ……和葉……」


ポタリと流れ落ちた涙が私の頬へとつたる。
まるで私が泣いているみたいだ。


「正輝……私……もう駄目なのっ……」


弱音を吐いた瞬間、足が崩れ落ちた。


「和葉!?」


私を支えながら砂浜へと座り込む正輝。
キミの顔を見上げながら力なく笑ったんだ。


「私ね……もう生きていけないっ……。
死にたいの……楽になりたいの……」

「っ……」


哀しそうなキミの顔が私を見降ろしている。
そんな正輝を見ながらもう1度フッと頬を緩めたんだ。


「こんな世界に希望なんてない……そうでしょ?」

「……」


正輝は複雑そうな顔をしていた。
私の言葉を否定しないのは、キミも痛いくらいに分かっているから。
この世界がくだらないって知っているから。

黙り込むキミは少し考えて小さく口を開いた。


「じゃあ、一緒に死ぬ?」

「えっ……」

「俺はいいよ。
アンタが一緒なら生きてても、死んでも、どっちでもいい」


キミはそう言って笑った。
正輝のいつもの笑顔と何ひとつ変わらない満面な笑顔。
『一緒に死ぬ?』なんて冗談で言うだけでも躊躇してしまうのに。
正輝には冗談なんて概念は無くて。
いつだって本気だから、余計に驚いてしまう。


「正輝……?何言って……」

「だって死にたいんでしょ?だったら付き合う」


笑顔のままサラリと言ったキミ。
言葉なんて出なくて正輝を見つめる事しか出来ない。

死にたい、その気持ちには偽りなんてない。
だけど誰かを巻き込もうなんて考えもなくて。
それが正輝なら尚更だ。

それに、何でキミは何の迷いもなく私に付き合うと言うのだろうか。
どこかに行くとか、何かをするとか、そんな事じゃないのに。
生きるか死ぬかの問題なのに。
何でキミはそこまで私を真っ直ぐな目で見るのだろうか。
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