嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
もう既に涙は止まっていたけれど。
少し腫れた目を細めながら笑うキミ。
だけど私にはとても哀しそうに見えたから。
話し掛けようと口を開いたけど、喋り方を忘れたみたいに声を出す事すら出来ない。
そんな私をよそに正輝は口を開いた。


「もしあの時、和葉が本当に自殺をしようとしていたとしても。
……俺には止める資格なんて無かったんだ……」


海の先を見つめながらキミは頬を緩めた。
その言葉の意味が分からなくてキミに訊ねようとしたけれど。
私が口を開く前にキミがその答えをくれたんだ。


「だって……あの日、死のうとしていたのは俺の方だから」


強い風が吹き荒れて。
私と正輝の髪を靡かせた。

驚いた、なんて言葉では表せなくて。
ただ呆然とキミを見つめた。

正輝が死のうとしていた?
そんなの信じられなかった。

だってキミは……。
あの時、そんな雰囲気を微塵も見せていなかった。

それどころか、正輝の心だって。
死を意識した事なんて何ひとつ言っていなかった。

それなのに。


「どうして……」


そのひと言を絞り出すだけでどんなに勇気がいったか。
震える声で、キミに訊ねたんだ。


「……何か疲れてたんだ、あの時は」


思い出す様に笑うキミ。
でも、少し呆れた顔も交じり合っていた気がした。
今では考えられないという風に笑う正輝を見ながら小さく拳を握りしめた。


「親の同情の目がいつまでたっても消えなくて。
学校で仲が良かった人も離れていって……。
別に哀しくはなかったけど……何かもうどうでも良くなったんだ。
誰かと仲良くしたい訳じゃないし、1人が嫌いな訳でもない。
でも、次の日が転校初日だと思うと面倒臭くて、逃げ出したくなった」


何とでもない事を話すかの様に、正輝は話し続けた。
その間も私はずっと拳に力を入れていたんだ。
何処にもぶつけようがない感情。
その全てを手のひらに籠めたんだ。
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