嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「全部を終わらせようとして、それに相応しい場所を探し求めていた。
……それで辿り着いたのがこの海だったんだ……」


柔らかいキミの笑み。
でも、その顔を見る度に胸が悲鳴を上げるんだ。

正輝は確かに笑っている。
その笑顔に嘘はないのに。
私には哀しそうに見える。

きっとキミは自分でも気が付いていないけれど。
凄く苦しんでいるんだ。
それが分かるからこそ私は何も言えないでいた。


「……ココが俺の人生の終わりの場所。
すぐにそう思ったけど……」


穏やかな声が急に途切れたんだ。
包み込むのは沈黙だけで。
私も正輝も黙り込んだまま海を見つめていた。

波の音がいやに大きく聞こえた。

それと同時にキミは小さくタメ息を吐いたんだ。
でもそれは呆れたモノじゃない。
どこか嬉しそうにも聞こえた。


「でも……アンタが海に入っているのを見た瞬間、そんな想いは消えたんだ」

「え……」

「あんなに遠くから表情なんて見えるはずもないのに。
苦しそうに顰めた眉も、哀しそうな瞳も、何かに耐える様な唇も。
俺にはハッキリと見えたから。
そんなアンタが今まさに死のうとしている。
理由は知らないけど、苦しんでいるのは一目瞭然で。
死のうとしていた俺が抱く感情じゃないけど……アンタには死んで欲しくなかった」


波の音に紛れてしまいそうなくらいの小さな声。

それでも十分だった。

胸に突き刺さって、離れていかないんだ。

ぎゅっと、締め付けられる胸を押さえて。
強く唇を結んでずっと遠くを見つめた。

こうでもしていないと。
もう駄目だって分かっていたから。

熱くなった目の奥から、涙が溢れ出そうになるから。


「っ……」


大きく息を吐いて、冷静なフリをするんだ。
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