嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「っで、気が付いたらアンタを止めてた」


さっきと同じ様に、キミは海に入って私の腕を掴んだ。
私を助ける為に。
自分が濡れる事なんてお構いなしに正輝は私を引き留めようとしてくれた。


「まあ、あの時は勘違いだったけどさ」

「……うん……」


死のうなんて思ってもいなかった。
最初は驚いたけれど。
きっと私は嬉しかったんだ。
勘違いとはいえ、私をこの世界に繋ぎ止めようとしてくれた。
それが……嬉しかった。


「アンタを救おうとしたけれど。
実際は……俺が和葉に救われたんだ……」

「……救われた……?」


身に覚えがなくて、思わず聞き返してしまう。
正輝はクスリと笑うと私の手を力強く握った。


「うん。
アンタがあの日、ココにいなかったら……。
俺は間違いなく命を絶ってたから」


迷いのないキミの言葉。
どんな顔をすればいいのかなんて分からない。
だから言葉の代わりに正輝の手を握りしめたんだ。


「……だから……アンタは俺の命の恩人って訳」

「……そんな事ないよ……」

「そんな事あるの。
和葉が俺をこの世界に繋ぎ止めてくれた。
生きていたいと思わせてくれたんだから」

「……正輝が生きててくれて……良かった……」


キミがこの世にいないなんて。
そんな事を想像すらしたくない。
だって、キミがいない世界なんて、私には何の意味がないから。


「……だからさ」

「……ん?」

「俺の命はあの時に無くなっていたのと同然なんだ。
アンタが無理やり俺を引き止めただけ」

「無理やりって!」


思わず笑ってしまう。
さっきは、感謝している、みたいな雰囲気だったのに。
今は、私が勝手に助けた、みたいな雰囲気になっている。

どっちも正輝の本当の想い。
そう思うと、少しだけ可笑しかった。
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