嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「だから……俺はいつ死んだって構わないんだ」

「正輝……?」

「アンタがいるから生きたいと思った。
でも、アンタがこの世界にいないのに……。
俺が生きている意味はないから」


何で。
何でキミはそんな事を迷いもなく言い放てるの?

私と正輝は親友で。
私にとっては何よりも大切な人で。

だけど。
どうしてキミは私の為に命を捨てようとするの?

そんなに簡単に。
考えもせず、即答が出来るの?

いくら考えても私にはその答えは分からない。

これが正輝以外の人なら。
私の自殺を止めようとワザとこう言っているんだって思えるけど。

キミの場合はそうはいかない。
嘘がつけない正輝にとって、この言葉は本物なんだ。
私が死ぬと言えば、キミは躊躇いもなく私と一緒に死の道を選ぶだろう。


「やめてよっ……」

「え?」

「私と付き合って一緒に死ななくていい!
正輝には生きていて欲しい!!
だからっ……」


キミの手を振り払って叫ぶ。

死ぬのは私だけでいい。
誰かを道連れにしたい訳じゃない。

何よりキミには生きていて欲しい。

生きて、お兄さんや、ご両親と。
本物の家族を築き上げて欲しいから。


「それがアンタの答え?」

「正輝……?」

「『付き合って死ななくていい』って事はアンタは死ぬって事でしょ?」


何も答えられずにいれば、キミは『分かった』と言って笑ったんだ。
見惚れてしまうくらいの格好良い笑顔。
その笑顔のままキミは私の手を掴んだ。


「……一緒に死のう」

「えっ……」


戸惑う私に穏やかな笑みを向けると正輝はゆっくりと歩き出した。
私の手を引っ張って。
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