嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「一ノ瀬くん!学校を案内してあげる!!」

「一緒にご飯食べて、その後に回ろう!」


4時間目の授業が終わった瞬間。
正輝の机の周りには5人の女子が集まって来ていた。

正輝の事を格好良いと騒いでいた子たちだ。

どうでもいいけれど、近くで騒がないで欲しいな。

私と正輝は隣同士で。
小さめな声でも聞こえるのに、馬鹿でかいその声は嫌でも耳に入ってくる。

煩くて、我慢できなくなった私はお弁当を掴み席を立ちあがる。
その時だった。


「煩いんだけど」


いきなり低い声が落された。

その声は教室中に聞こえていたのか、喋り声が飛び交っていた空間が一気に静まりかえった。


「俺はそんな事を望んでないし。
ギャーギャーと騒がないでくれる?」


そんな事を言われるとは予想もしていなかったのか女子たちは呆然と立ち尽くしている。
クラスメートも信じられないといった目で正輝を見ていた。

正輝はと言うと我関せずの顔をしていた。
皆が固まる中、1人で青い布袋を手に持つとスタスタと教室を出て行ってしまう。


「……」


正輝の出て行った方を見ていれば耳に届くのは彼を批判する様な声だった。


「何だよアイツ!」

「ちょっとモテるからって生意気じゃないか?」

「うざっー」


男子たちが騒ぐ中で女子の中にも同調をする人たちもチラホラといた。
でもやっぱり、格好良いと騒ぐ声は消える事はなかった。


「マジ格好良い!(性格は最悪だけど顔は超タイプ!)」

「本当本当!(ウザいけどアクセサリー代わりにはなるかも)」


ふいに彼女たちと目が合い、頭の中で響き出す声。

それは聞いていたくないモノで。

私は咄嗟に走り出した。

何も聞こえない、静かな場所に。

そんな事を考えながらひたすらに足を動かした。
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