嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「いっぱい傷付けてごめん。嫌な想いをさせてごめん」


沢山の“ごめんなさい”を言葉で伝えていく。
全部が届かなくたっていい。
ほんの少しでも、キミに伝わればそれでいいんだ。


「……もういいよ。
俺の事、守ってくれてありがとう」


柔らかく弧を描いた唇。
その優しい笑顔は、私の気持ちが伝わった事を表していた。


「守ってなんか……」


ちゃんと守る事が出来なかった。

結局はキミを傷付けて、苦しめて。

正輝に助けられた。

でも。
言葉を遮ったのは分かったからだ。

キミは私の否定の言葉なんか望んでいない。
正輝が望んでいるのはたった1つの言葉だ。


「……どういたしまして」


にっと目を細めればキミも満足そうに笑う。


「よく出来ました」


柔らかい笑みと同時に優しい温もりが私を包み込んだ。

目の前にある逞しい胸板。
背中に回るキミの腕。
鼻を掠めるキミの香り。

正輝の全部が私の心を癒してくれる。

バラバラに刻み込まれて。
もう2度と元に戻らないと思った心が。

今、元通りにくっついていく。

正輝の優しさが加わって。
前よりも、力強く、優しく。

綺麗になった気がした。
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