嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「1人でよく頑張ったね」


ポンポンと背中を叩くキミ。
それが心地良くて、正輝に抱き着きながら目を閉じる。


「……うん」


小さく返事を返せばクスリと笑われるけど。
正輝が手を止める事はなかった。


「……今は聞こえるの?」

「え?」

「心の声」


何故か不思議な気がした。

“心の声”

そう自分で口にすれば、凄く嫌なモノに思えるけれど。
キミが口にすると、いいモノみたいに聞こえるんだ。


「ううん、聞こえない」

「そうなんだ」

「うん……凄く不思議なの」

「なにが?」

「今まで何処にいても、煩いくらいに響いていたのに。
キミといると凄く静かで……落ち着く……」


正輝の胸板に頬を摺り寄せれば、くすぐったそうにキミは身を捩った。
でも決して私を離そうとはしなかった。


「ん……なんか照れる」

「そうなの?」

「……うん」


目線だけをキミに向ければ紅くなった顔が目に映った。

多分、私も負けないくらい紅くなっているだろう。
だって顔が熱くて仕方がないのだから。
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