嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
バクバクと動く心臓。
走っているからそれは当然なんだろうけれど。
でもそれだけではない。
さっき頭に響いたあの声、心の声が、私の胸を鷲掴みにしているんだ。

自分の事を言われた訳じゃないのに。
私には関係ないのに。
胸が痛くて。

思い出すだけで走るスピードが上がっていく。

いつもと同じ廊下。
距離なんて変わらないのに今日は嫌に長く感じる。

何処かの教室から向けられる視線。
すれ違う人たちが驚く顔。

そんなモノはどうだって良い。

とにかく今は1人になりたかった。

走って、走って。
階段を駆け上って。

足がもつれそうになっても、転びそうになっても。
決して止まる事はしなかった。

目的地なんて決めていなかったのに。
真っ直ぐに、迷いなく。
上へと向かっていた。


「っ……はぁ……はぁ……」


元々、体力がある方ではない私。
全速力で駆け抜けてきたせいで肩が激しく上下に揺れていた。

肺が苦しい。
酸素が足りない。

頭でそんな事を考えながらも止まる事なく走り続けた。
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