嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……はい、じゃあ今から向かうね」


電話を終えたのか、キミは私の方に視線を向けた。


「この近くに先生の家があるから、とりあえずそこに行こう」

「先生?」

「うん、カウンセラーの」

「ああ、この前言ってた……」


正輝が通院しているカウンセラーの先生。
キミが頼るって事は相当、信頼しているのだろう。
そういえば、その人の事を話している時の正輝の顔は優しかった気がする。


「……」

「和葉?行くよ?」

「あー……うん」


正輝に手を掴まれて、一緒に歩き出す。

いつもならこの温もりが嬉しいのに。
今は少しモヤモヤとしていた。


「どうしたの?」

「え?」

「何か眉間にシワが寄ってるから」


正輝は私を見ながら首を傾げていた。
自分でも気が付かないうちに考え込んでいたらしい。
繋いでいない方の手で眉間を擦りながら小さく口を開いた。


「先生ってどんな人?」

「え?どんな人ってイイ人?」

「……まあ、そうだろうけど……」


少し考え込む様に正輝は口を閉ざした。
でもすぐに『ああ』と声を上げる。


「綺麗な人だよ」

「えっ……」

「凄く綺麗な人。だから和葉も気にいると思う」


キミはそう言って笑っていたけど。
私は気が気ではなかった。

綺麗って事は女性だよね。
それに、家まで知っているとか、凄く親密な関係なんじゃあ。

考えれば考えるほど胸がモヤモヤして。
話し掛けてくれるキミに相槌を打つ事だけで精一杯だった。
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