嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「っで?どうして2人はそんなに濡れているの?
まさかこの寒い日に海で水遊びって訳でもないだろうし」


先生の質問に私たちは黙り込んだ。

正輝は気まずそうに顔を顰めている。

それもそうだろう。
私が自殺をしようとしたなんて、簡単には言えない。

だから黙っていてくれているのだろうけど。
このまま何も言わなかったらキミは知っているのに言わない訳だから、嘘をついた事になるのではないか。

只でさえ、言いずらい事を正輝に言わせるなんて残酷すぎだ。
そう思った私は、1度だけぎゅっと唇を引き締めて、すぐに開いた。


「私……自殺しようとしたんです。
それを正輝が止めてくれて」


笑いながら言えばキミは辛そうに俯いた。
先生は先生で驚いた様に目を見開くけど、すぐに『そっか』と小さく呟いた。
流石、カウンセラーの先生という所だろうか。
この手の話は毎日の様に聞いているのだろう。
そう思っていれば先生は真っ直ぐに私の方を見た。


「……よかったら聞かせてくれないかな?」

「え?」

「俺でよかったら力になるよ」


戸惑っていれば、いきなりポンと背中を叩かれた。
横を見ればキミも私を見ていて。
目が合った瞬間にコクンと頷かれる。
私も小さく頷き返して先生を見つめる。


「実は……」


ゆっくりと話し出した。

目を合わせると聞こえてきていた心の声が、何もしなくても聞こえて来るようになって。
それに耐えきれずに全てから逃げ出したと。
初対面の人に話す内容ではないが、先生は真剣に聞いてくれた。


「……なるほど」


先生は腕組みをすると何かを考える様に私を見てきた。


「あの……」

「俺は心の声を聞こえる人を初めて見たからよく分からないけれど。
大体、症状に変化がある時はそのキッカケがあるはずなんだ」

「キッカケ……ですか……?」

「ああ、最近何かとても辛い事があったとか」


その言葉に今度は私が固まる番だった。
心当たりはあった。
正輝のお兄さんの事だ。
お兄さんの心の声を聞いた時から、異変が現れたから。
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