嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「俺の兄貴の心の声を聞いた時から少し変化が出てきたらしいよ」

「正輝クンのお兄さんの心の声……」

「ん、何か俺の事を憎んでるみたい」


2人の会話を聞きながら少し俯いた。
お兄さんの事を話すキミを見るのが辛かったから。
そう思っていれば先生はそんな私に声を掛けてくれた。


「和葉ちゃん、君が心を痛める事じゃないよ。
聞きたくもない声を毎日、聞くなんて相当のストレスだと思う。
……今までよく頑張ったね」


先生の声に顔を上げれば、ふいに頭の中に声が響いた。
目の前の先生と全く同じ声。


「(この子は本当に強い子だ。
他の子ならとっくに病んでいただろうに……)」


その声を聞いた瞬間に目の奥が熱くなった。

強い、なんて私には勿体ない言葉だけど。
凄く嬉しいんだ。


「……ありがとう……ございますっ……」


深く頭を下げながらお礼を言う。


「(正輝と似ていて真っ直ぐな子だな)」


柔らかい声が頭の中に響き渡る。

でも、苦しくなんかは無かった。

だって、先生の心の声も。
正輝と同じ様に裏表がないから。

先生の笑顔と同じ、優しい声だ。


「正輝の言う通りだった……」

「ん?」

「先生は凄く綺麗な人だね」


にっと口角を持ち上げて、正輝を見れば、彼もまた優しい顔で頷いてくれる。
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