嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
ガチャリッ……。

古びた音と共に重たいその扉を体で押すようにして開ける。
目に映るのは大きな空と眩しい光。

辿り着いたのは屋上だった。
でも人の姿は見えない。

ココは本館の屋上で誰でも入れるようになっているけれど、滅多に人が来ることはなかった。
所々、錆びれているけれど、2年生の教室と同じ館なのに。

屋上に行きたい人は皆、2号館の屋上に行くんだ。
そこは新しい校舎で、何と言っても綺麗だった。
錆び1つないし、手入れも施されているし。
この屋上とは打って変った場所。

だけど、そんな屋上より断然と私はこっちの方が好きだった。

ココには誰もいないから。
醜い声も、知りたくない声も。
聞かなくてすむこの場所は安らぎの空間だった。


「っ……!」


大きく息を吸い込む。
荒れた息を整えながら、足りなかった酸素を十分に取り込んで空を仰いだ。

こうしていないと、今にも涙が零れ落ちそうだった。

理由なんて分からない。

誰かの心の声を聞いたからか、正輝の事を言われたからか。

分からないけれど。
でも、もう聞いていたくないと思った事には間違いない。

産まれてきてからずっと。
心の声が聞こえる事なんて当たり前だった。
慣れているつもりでもいた。

そりゃあ、気持ちが良いものじゃないし、辛かったけれど。
それでも……。
ココまで胸が苦しくなったのは初めてだった。


「……もう……いやだっ……」


ポツリと出た弱音。
それは大きな青空に吸い込まれて消えていく筈だった。
でも。


「何が嫌なの?」


上から降ってきたキミの声が、私の小さな声を受け止めてくれたんだ。
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