嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「2人にとってこの出逢いは大きかったんだね」

「はい」


噛みしめた様な言葉に私は迷う事なく頷いた。
キミと出逢っていなかったら私はきっと。
とっくに壊れていただろう。

だからキミと巡り合えたのが運命だと言うのなら。
私は神様に感謝をしなければいけない。

それくらい、正輝と出逢えた事は私にとって凄く大切な事だから。


「……和葉ちゃん」

「はい」


返事をすれば先生はぎゅっと唇を結んだ。
そして、一瞬だけ、私ではない方へと視線を向けた。
部屋のずっと向こう、ココからでは見えないけれどお風呂がある方だ。
きっと、正輝の事を見ているのだろう。
そう思っていれば、視線は私の方へと戻ってくる。


「これからも正輝クンの事を支えてあげて欲しいんだ」

「先生……」


テーブルのギリギリまで頭を下げる先生。
正輝の事をどれだけ大切に想っているのかが伝わってくる。


「(君なら正輝クンを救える、だから……)」


頭の中に響く優しい声。
ここまで誰かの事を想える先生は、本当に心の綺麗な人だ。
それと同時に羨ましさが胸に広がる。
正輝には、こんなにも綺麗な人が傍にいてくれたんだ。
そう思うと、少しだけジェラシーを感じてしまう。
だって、私にはそんな人はいなかったから。
だから、羨ましいと思うけれど。
でも、そんな気持ちよりも、正輝の傍に先生がいてくれてよかったって思うんだ。
キミがキミらしくいられたのは、先生のお蔭でもあるから。


「……私には正輝を支えるなんて大それた事は出来ません」

「……和葉ちゃん……」


まさか断られるとは思ってもいなかったのだろう。
哀しそうに眉を下げる先生に少し胸が痛くなる。
でも、それが私の本当の気持ちだった。
だって。


「支えられているのは私の方です。
私は正輝の力になれるほど立派な人間じゃないけれど……。
彼の傍にいるって事に変わりはありません」


正輝が嫌がったって離れる気はない。
だって、もう決めたから。
自分の気持ちに嘘はつかないと。
< 240 / 336 >

この作品をシェア

pagetop