嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉ちゃん……」

「だから先生、これからも正輝をよろしくお願いします」


正輝を支えられるのは私ではなく先生だと思う。
私は専門的な事は何ひとつ分からないし、どうする事も出来ない。
ただ、彼の傍にいる事しか出来ないから。


「……本当に君が正輝クンの傍にいてくれてよかった」


さっき私が思った事と同じ様な事を口にする先生。
それを聞いた瞬間、顔に笑顔が浮かんだ。
やっぱり先生はいい人だ。


「それは私の台詞です。
先生が正輝の傍にいてくれて本当によかったです」


素直な気持ちを言葉にすればすぐに先生も笑顔になってくれる。

2人で笑い合っていれば先生はゆっくりと笑顔を消して、真剣な顔で見てくる。
私もつられて姿勢を正して顔を引き締める。


「それから和葉ちゃん」

「は、はい」

「もう2度と、自分の命を絶とうとしない事」

「あっ……」


数時間前の事なのに、すっかりと忘れていた。

それくらい私の心が落ち着いたという事だろう。

そう思いながらコクリと頷いた。


「……多分、もう大丈夫です」

「多分?」


ジロリと睨まれるけれど、それに苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「だって、この世に“絶対”はありませんから」


そう、この先何があるかは分からない。
今は自殺をしようなんて気持ちは全然ないけれど。
実際に私はついさっきそれを実行しようとしていた。
それまでは考えてもいなかったのに。
そう考えれば約束は出来ない。

肩を竦めながら言えば先生は驚いた様に目を丸める。
でもすぐに諦めたように顔を緩めたんだ。
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