嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉ちゃんって正輝に似ているね」

「え?」

「自分に真っ直ぐで、凄く格好良いよ」


先生の言葉に私は目を見開いた。

だって、今までの私には、真っ直ぐなんて言葉はお世辞でも言えないくらいだった。
いつも何かから逃げ出していた。
自分の気持ちからも、他の人の気持ちからも。
誰かに合わせる事が楽で、浮かなければそれで良くて。
自分の意思なんて私には存在をしていないのと同然だったのに。
先生はそんな私の事を、真っ直ぐだと言ってくれた。
それが嬉しくない訳がない。


「……ありがとうござい……ますっ……。
みんな……正輝のお蔭です……!」


言葉に詰まりながらも最後まで言い切って笑顔を浮かべる。

先生も笑うと立ち上がって私のすぐ隣へと座った。

驚いていれば先生はグイッと私の肩を引き寄せる。


「あ、あのっ……」


戸惑う私をよそに先生は、そのまま唇を耳へと寄せた。


「和葉ちゃんって正輝クンの事好きでしょ?」


怪しい声が私の耳元で囁かれる。
先生は疑問形で聞いていたけれど、どこか確信満ちていた言葉。
それが少し可笑しくて小さく笑った。


「……はい、大好きです」


にっと笑えば、先生はすぐに優しい笑顔に戻る。
それでも肩から手を離す事はなかった。


「正輝クンには伝えないのか?」

「……今はそのつもりはありません。
だって……正輝と私は同士みたいなものだから……」


嘘がつけないキミと、人の心の声が聞こえる私。
全然違うけれど、同じようなモノ。

今の、キミと私の距離が好きだから。

親友であり、同士であるキミ。
いつも隣にいて、手と手が触れ合うくらいに近いのに。
キミの全てには触れる事は出来ない。

そんな距離が今は心地良いから。

なんて、言い訳をたくさん並べたけれど。
本当は怖いんだ。
キミの気持ちを知るのが。
< 242 / 336 >

この作品をシェア

pagetop