嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ねえ、そんなに先生が気になるの?」

「え?何言って……」

「だって、ずっと扉の方を見つめているから」


眉間にシワを寄せたまま正輝は私の顔を覗き込む。
明らかに機嫌が悪そうだ。


「いや、そう言う訳じゃ……」

「だったら何?」


逃がさない、とでも言うように正輝は私の両腕を掴む。


「だ、だってキミは怒っているし、先生は逃げるし……」


何で怒っているかが分からない為、慎重に言葉を選びながら喋る。
視線を逸らそうとしたけれど。
真っ直ぐな目にそれすら出来なくて、キミを見つめながら口を動かせば、正輝は真剣に聞いていた。


「……じゃあ、何してたの?
……先生とあんな近くで……」

「べ、別に何かをしていた訳じゃないよ!
……ただからかわれてただけで……」


嘘ではないだろう。
先生は私が正輝の事を好きだと見抜いて、それをからかっていただけだ。
流石に内容までは正輝には言えないけれど。


「……ふーん」


未だ納得をしていないかの様にキミは唇を尖らせた。
拗ねている事が丸分かりのその顔を見ると笑えてきてしまう。


「……何笑ってるの」

「痛ッ!?ちょっと頬っぺた掴まないでよ!」

「アンタが悪い」


ぎゅっと伸ばされた頬っぺたはジンジンとした痛みを伴っていく。
いつまでたっても離そうとしない正輝。
それどころか掴む力が強くなっていく。


「正……輝っ!」

「……何を話してたの?先生と」


ボソリと呟くと正輝は哀しそうな目で私を見た。
もしかして先生と私が仲良さそうに話していたから怒っているの!?
正輝にとって先生は大切な人な訳だし。
初対面の私が先生と仲良くしたら嫌な気持ちにもなるか。
自分の軽率さを感じながら正輝を見つめる。
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