嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「つまり……俺が取られたくないのはアンタって事。
……変な誤解しないでくれる?」


拗ねた様に唇を尖らせる正輝。
でもその顔は真っ赤に染まっていた。


「……は、はい」


思わず敬語になってしまうくらい心臓がおかしくなっていた。
ドクンと高鳴る鼓動。
恥ずかしくて俯けばキミの手が頬に触れた。


「俺、アンタが他の人と話してるの凄く嫌だ」

「っ……!!」


クイッと顔をあげられる。
交じり合った視線。
キミの綺麗な瞳に吸い込まれそうになるんだ。


「今までは和葉はずっと俺の傍にいて、他の奴と喋る事もあんまりないから気が付かなかったけど。
でも……さっき先生と凄く近くで話してるのを見て……。
……胸がぎゅって締め付けられて、苦しかったんだ」


哀しそうな目で私を見るキミ。
真っ直ぐな想いが胸にジワリと広がっていく。


「俺嫌だ。
アンタが他の奴と喋ってるの見たくない」

「ま……正輝……」

「でも、喋るな、なんて言えないから……。
なるべく俺の傍から離れないでよね」


正輝は言うのと同時に私の体を引き寄せた。
そしてそのまま彼の腕の中に閉じ込められる。
いきなりだった為、抵抗も出来ずにそのままキミの胸板に体を預ける事しか出来なかった。


「こうやって離れなくなればいいのに」

「え?」

「アンタが俺の腕から消えない様に、ずっとくっついていられればいいのに」


寂しそうな声に何も答えられなかった。
でも、抱きしめられる度に胸がキリキリと痛むんだ。
正輝のそんな声を聞いていたくなくて。
私も正輝に負けないくらい強く抱きしめ返した。
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