嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「正輝クン、そろそろ離してあげたら?」

「先生……もっと言ってくださいっ!」


目の前に現れた救世主に助けを求める。
とにかく今は正輝から離れたかったんだ。
だって、人前で抱きしめ合うなんて恥ずかしいもの。


「……」


でも、それが正輝の気に障ったようだ。


「痛ッ!?痛いって!!何、何なの!?」


肺を押し潰されるんじゃないかってくらいに強く抱きしめられる。
驚きと痛さに戸惑っていれば先生は慌てた様に正輝の腕を掴んだ。


「正輝クン!和葉ちゃんが苦しそうだから離しなっ!」

「……嫌だ」


それでも離そうとしないキミ。
でも、抱きしめる力は少し弱めてくれたみたいだ。
痛さが体から無くなり、安心をしていればふいに正輝と目が合う。


「何で俺から離れようとするの?」

「え?」

「俺といるの嫌?」


寂しそうなキミの顔。
私も先生も黙り込んでしまう。
先生は正輝の腕を離すと少し私たちから離れていく。
どうやら2人で話をさせようとしているみたいだ。
先生の気遣いに感謝をしながら、正輝を見つめた。


「嫌な訳ないでしょ?」

「……じゃあ何で離れるの?」

「それは……」


真っ直ぐな瞳に視線を逸らす事も出来ずに、素直に言う事しか出来なかった。


「人前で抱きしめ合うって恥ずかしいの。
ただでさえドキドキするのに、これ以上ドキドキさせないでよっ」


恥ずかしさから顔に熱が集中しだす。
そんな私をポカンと口を開けて見つめる正輝。
少しの間沈黙が走るけれどすぐに消えていく。


「よかった」


安心しきった様な声に首を傾げればフワリとした笑みを向けられる。


「アンタが俺を嫌いになってなくてよかった」


あまりにも優しく笑うから私もつい笑顔になってしまう。


「嫌いになんかなる訳ないでしょ?」

「……よかった」


さっきとは違って優しく抱きしめられる。
まるで壊れ物を扱うかの様に。
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