嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「正輝……」


見上げれば覗き込む様にしたキミの顔があった。

給水塔の近くにあるちょっとしたスペースに正輝は座っていた。

呆然と見上げていれば、ひょいひょいと手招きをする彼。
戸惑いながらも小さく頷く。

少し錆びれた梯子を上れば、見えてきたのはさっきと比べ物にならないくらいの綺麗な景色。


「うわぁー……」


ビルや建物、一軒家。
見慣れているはずの味気ない景色。

でも少し高くなっただけなのに、大きな青の空が近くなって。
まるで1つの絵みたいに輝いていた。


「……」


景色を堪能していれば、さっきと同じように手招きをする正輝。
ゆっくりと近付けば自分の隣をポンポンと叩いた。

座れという意味だろうか。

それは定かではなかったけれど彼の隣に腰を下ろした。

座っても目に映る景色は変わらず綺麗で。
言葉さえもなくしてしまいそうだ。


「……」


そんな私をチラリと見ていたけど、すぐに視線が逸れる。
正輝の視線を辿れば青い布袋があって。
彼はそれをゆっくりと開いて中のモノを取り出した。


「お弁当……」

「うん、アンタは食べないの?」

「あ……食べる……」


正直、お弁当なんて食べられる状態ではなかったけど。
正輝につられていそいそとお弁当箱を取り出す。


「いただきます」


丁寧に両手を合わせて箸を持つ彼。
自分の手を止めて正輝のお弁当を盗み見た。


「わっ……豪華だね……」


思わず声に出せば正輝は小さく笑った。


「やっぱりそう思うよね、俺も思う」


正輝は笑っていたけれど、その顔はどこか影が差している様な、哀しそうな顔に見えた。
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