嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「もう……大丈夫だから」

「え……」


首を傾げる山本くん。
私はにっと口角を上げて見つめ返す。


「あなたの叫びは私の心に届いた。
だから……貴方を救いたい……」


驚いた様な彼の顔。
山本くんは固まっていたけれどすぐに私を睨みつける。


「ふざけるな!
お前に救われるほど落ちぶれてない!
お前は自分の心配でもしてろよっ!!」


怒鳴る彼から目を逸らさないのは、聞こえるからだ。
山本くんの本当の声が。


「(助けてくれ白石……俺はもう限界なんだっ……)」


胸を切り裂く様な痛々しい声。
それを聞いた瞬間に歯に力が入る。
私に背を向けて歩き出す彼に向かって言葉を放つ。


「逃げないでよ!!
自分の気持ちからもう逃げないでっ!!」


もう大丈夫だから。
あなたがこれ以上、傷つく事なんかない。
だから……。


「逃げないでよっ……」


絞り出す様に言えば、山本くんは息を呑んだ。
その理由は分からない。
だけどすぐに教えてくれるんだ。


「何でお前が泣いているんだよ……」


辛そうな声が向けられて初めて気が付いたんだ。
自分が泣いているって事に。


「別に……泣いてなんか……。
ただ……あなたの苦しみが胸に伝わってくるから……」


ジワリと熱くなる目の奥。
両手で擦りながら必死に言葉を繋ぐ。


「白石……っ!?」


心配そうな声は途切れる。
その代わりに驚く声が落とされた。


「山本く……」


話し掛けようとした時、ポンと肩を叩かれる。


「何してんの?」


低い声が私の声を奪っていった。
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