嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉を泣かせたのはアンタ?」

「い、一ノ瀬……」


低い声が後ろから聞こえてくる。
振り返れば怖い顔をした正輝が立っていた。


「正輝……」

「アンタはちょっと黙ってて」


低い声に口を閉じれば正輝は山本くんに視線を戻した。


「ねえ、聞いているんだけど」

「か、関係ねぇだろう!?」


山本くんはそれだけ言い放つと背を向けて何処かへと走って行ってしまう。
そんな彼の後ろ姿を眺めながらぎゅっと強く唇を結んだ。


「……来て」

「……え?」

「……」


手を引っ張られて、私の体は前へと進む。

キミに声を掛けるけれど。
それに応えることなくただ黙ったまま歩き続けていた。

手から感じる温もりだけが私たちの間に流れるんだ。
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