嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
色鮮やかな手作りのお弁当。
まるで、お店で売っているかの様に綺麗で美味しそうだった。

でも正輝の顔はやっぱり哀しそうで、見ていられないくらいだ。


「お母さんの手作り?」


話題を変えようと明るく声を出したけれど。
どうやら話題を間違えたみたいだ。


「……うん」


私の方を向く事なくお弁当を見つめる正輝。
横顔からでも分かる辛そうな顔に何も言えなくなった。
黙っていれば、小さな笑い声が聞こえた。


「でも、嬉しいものじゃないよ。
……だってこれは同情の形だから」

「ど、同情……?」

「そう」


お弁当と同情。
それがどう繋がるかなんて想像もつかない。
だけど、それが哀しみの原因だって事は正輝の顔を見れば分かる訳で。
キリっと痛んだ胸を押さえて、地面におかれていた正輝の手をそっと握った。


「和葉?」


不思議そうに首を傾げる正輝。
だけど私は何も言えなくて。
ただ手を握る力を強めた。


「心配……してくれてるの?」

「別にそんなんじゃないけど。
なんか……こうしたくて……」


話していると感じないけど。
さっきの哀しそうな顔は、今にも消えてしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
だから、正輝が消えてしまわない様にこうやって繋ぎ止めておく事しか出来なくて。

まだ会ったばかりで、朝までは名前すら知らなかったのに。
正輝の事は何も知らないのに。

何故だかキミを放っておけない。


「俺は大丈夫だから。
アンタがそんな顔をしないで」


そう言ってキミは笑っていた。
だけど、心が痛くなる様なその笑顔を見ていたくなくてキミから目を逸らしたんだ。
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