嘘つきの世界で、たったひとつの希望。

「正輝！！」


ガクンと崩れ落ちる様にその場に座り込む正輝。
胸元を押さえながら荒く呼吸を繰り返すキミを見ると冷静ではいられなかった。


「きゃー！！」

「おい！倒れたぞ！！」


騒ぐクラスメートの声を遠くに感じながら倒れた正輝の体を抱きしめる。


「早く訂正を……！！」


急かす様にキミの体を揺らすけれど。
正輝は訂正をしようとはしなかった。
それどころか苦しそうに顔を歪めながらまたキミにとっての嘘をついたんだ。


「和葉は……嘘つきだ……あっうっ……！！」


肩を上下に揺らしながら苦しそうに顔を顰めた。

何で、何でそんな事を言うの。
苦しんでまで言う事じゃないでしょ！？

キミの額に浮かぶ汗は尋常ではない痛さを表していた。
荒れる呼吸はキミが必死に苦しみと闘っている事を証明していた。


「お願い……お願いだからっ……死んじゃうよ……！！」


キミの頬にぽたりと涙が落ちる。
だけどそんな私の叫びなんてキミには届かないんだ。


「ま……まだっ……これだけは……言わせてっ……」


途切れる声で、絞り出す声で正輝は発する。
何を言うかなんて分からない。
でも、もう苦しんで欲しくなんかない。


「あぁぁっ！！！」


悲痛を伴う叫びを聞いて冷静でいられる訳がない。

クラスメートは呆然と眺めながら息を呑んでいた。
あまりにも衝撃的な光景だったのだろう。
それは私も同じ気持ちだ。


「お願いだからっ！！早く否定を……」


叫ぶ私の頬に、震えた手がゆっくりと触れた。
それは勿論、キミの手で。
凄く苦しいはずなのに、正輝の顔はとても穏やかな笑みを浮かべていたんだ。


「……俺は……和葉に惚れてなんかいない……。
アンタなんて……大嫌いだよ……」


もう、何も考えられなかった。
キミは言葉と同時に意識を飛ばしたから。
頬に触れていたキミの手が、地面へと落ちていくのをただ眺める事しか出来なかった。