嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「いやぁぁぁ!!」


私の絶叫が教室中に響いた。
呆然とする皆、静かなその空間で、私の声だけが響き渡る。


「正輝!目を開けてよ!正輝!!」


何度も何度もキミの名前を呼ぶのに。
正輝はピクリとも反応をしない。

ポタポタと流れ落ちる涙。
視界はぼやけてキミの顔すら見えなくなっていく。

それでも、私の目に映ったキミの顔。
それは正輝の穏やかな笑顔だった。


「あっ……いやっ……いやだよっ……死んじゃ嫌だ!!」


叫ぶ事しか、キミに抱き着く事しか出来なくて。
泣き叫ぶ私をクラスメートはただ見つめている。


「白石!!」


誰かが私を呼ぶけれど、そん事はどうだってよかった。


「正輝っ……」


キミ以外は目に入らない。
キミ以外の事は考えられない。

泣き続ける私の腕を誰かが勢いよく引っ張った。
その数秒後。
頬の鈍い痛みと共に乾いた音が響き渡る。

呆然と目の前を見ていれば、唇を噛みしめながら眉を顰める山本くんが目に映った。


「しっかりしろ!
今救急車を呼んだ!一ノ瀬は死なない!!
お前が信じないで誰が信じるんだよっ!!」


山本くんの叫びが深く胸の奥底に突き刺さった気がした。

そうだ。
正輝が死ぬ訳がない。
私を置いて死ぬ訳ないじゃない。

私が今やる事は泣く事なんかじゃない。
キミを信じて励ます事だ。


「……ありがとうっ……」


山本くんにお礼を言って、涙でぐちゃぐちゃだった顔を手で拭う。


「正輝!!大丈夫だからね!!
今救急車が来るからね!もう少しだからね!!」


正輝を抱きしめて、必死に叫ぶ。
意識を失っていても聞こえるくらい、大きな声で。
喉が枯れたっていい、声が出なくなったっていい。
今キミに届きさえすればそれでいい。
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