嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
正輝の家を出て学校へと向かった私。
もうとっくに学校は始まっていた。
サボろうと思ったけれど、やっぱりキミがいない屋上には行きたくなくて。
仕方がなく教室へと向かった。


「し、白石……!!」


扉を開けた瞬間、誰かの声が聞こえた。
それでも気にする事なく自分の席へと向かう。
目に映る空席は私の隣のキミの席。
それを見れば胸が締め付けられるけれど堪えながら歩く。

すとんと席に座れば、誰かが走って私の元へと駆け寄ってきた。


「白石!無視するなよ!!」


前を見ればそこには佐藤先生がいた。
いかにも『心配しています』という顔で私を見ている。
だけど私には通用しない。


「(まったくコイツらは問題ばかり起こしやがって!!)」


頭の中で響くその声。
あの時の事件がどれほど学校や佐藤先生に影響を与えたかなんて知らないけれど。
どんなに悪い影響だったとしても。
まずは倒れた正輝の事を心配するものじゃないの?

ココにいる人間は皆そうだ。


「(余計な事を喋るなよ、白石)」

「(やっとの思いで何とか誤魔化したんだからな)」


やっぱり正輝の事を心配をしている人間なんて誰1人いない。
そう思った時だった。


「(白石が来たって事は一ノ瀬は目を覚ましたのか?)」


心配そうな声が1つだけ聞こえてきた。
その声の人の方を見た。
空席の前の席に座っていた男の子、山本くんを。


「白石……大丈夫か……?」

「……正輝……まだ目を覚まさないんだ……」


目が合った瞬間、声を掛けてくれる山本くん。
正輝の事を心配してくれたことが嬉しくて。
私は涙を堪えて口角を上げた。


「一ノ瀬の事もだけど……お前もだよ……」

「私は……」

「おら!もう授業始めるぞ」


佐藤先生は黒板の方へと向かう。
私も山本くんも口を閉じて前を向いた。
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