嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「アンタ達にとっては化け物かもしれないけど、俺たちにとっては普通だからさ。
和葉の苦しみを知らないくせに勝手な事を言わないでよ」


騒がしかった教室が一気に静まり返った。
だって、ココにはいないはずの人の声が聞こえたから。


「っ……!!」


誰の声かなんて確認するまでもない。
だけど、勢いよく振り返った。
その瞬間、堪えていた涙が溢れ出てくる。


「まさ……きっ……」


上手く声が出せなくて。
名前すらちゃんと呼べなかった。
それでもキミは柔らかい笑顔を私にくれるんだ。


「ただいま和葉」


そう言って手招きをするキミ。
考えるまでもなかった。


「正輝!!」


キミの名前を呼んで。
真っ直ぐに走り出した。

皆は驚きながらも道を開けてくれた。
だからすんなりと温もりを感じられたんだ。

キミに思いっきり抱き着きながら何度も名前を呼ぶ。


「正輝っ……」

「はいはい。
何回も言わなくたって聞こえてるから」


そう言って呑気に笑うキミは、倒れる前と何ひとつ変わっていなかった。

私の大切な。
親友であり、同士であり、異性として大好きな正輝のままだった。


「ばかっ!心配したんだから!!」

「ごめん」

「本当に心配……したんだからねっ……」

「ごめんね、和葉」


力一杯抱きしめられる体。
それに負けじと私も抱きしめ返す。

もう駄目だと思った。
信じていたけれど。
何度も何度も諦めかけた。
それでも、キミは生きてくれた。


「うぅ……生きててくれて……ありがとう……」


それ以外、もう何も言えなかった。
正輝が生きている。
それだけで十分だった。
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