嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「お帰りっ……正輝……」

「ただいま……和葉……」


にっと笑い合ってもう1度抱きしめ合う。

もう2度とごめんだ。
この温もりを失うのは。

キミが消えてしまわない様に強く抱きしめる。
それに応える様に正輝も私を抱きしめた。

苦しいけど、痛いけど。

それよりも幸せだった。

再会を喜んでいれば水を差す様な低い声が向けられる。


「お、おい……一ノ瀬……テメェ……」


キミは深くタメ息を吐くと私を抱きしめながらそっちに視線を向けた。
それも、凄く面倒臭そうに。


「なに?クラスのリーダーさん。
ちょっと黙っててくれない?邪魔」


そのストレートな言葉に笑いが込み上げてくる。
やっぱり正輝は正輝だ。
クスクスと笑っていれば、ぎゅっと鼻をつままれた。


「こら、笑わないの」

「だってー」

「だってじゃない」

「痛ッ!?ごめんってば!!」


あまりの痛さに降参をすれば、優しい笑みを浮かべながら私の鼻を解放する正輝。
よしよし、なんて言いながら鼻を撫でてくれるけれど。
少し恥ずかしかった。


「おいこら!イチャついてんじゃねぇ!!」


加藤くんの言葉に私とキミは同時にタメ息を吐いていた。
そして。


「うるさいなー。イチャついているんだから邪魔しないでよね」

「うるさいなー。イチャついているんだから邪魔しないでよ」


私と正輝は綺麗にハモリながら同じ事を言っていた。
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