嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「なっ……」


怒りからか震える加藤くん。
そんな彼に容赦なくキミの厳しい言葉が向けられる。


「そんなんだから皆から嫌われるんだよ」

「なっ……一ノ瀬っ……!!」


我を忘れかの様に正輝に殴り掛かってきた加藤くん。
私は咄嗟に正輝から離れてキミを守る様に前に出る。
怖くて目を瞑ってしまったけれど。
いつまで経っても痛みはやってこなかった。


「もうっ……本当にアンタは危なっかしい……」


タメ息を吐きながら私を見降ろすキミ。
その手はしっかりと加藤くんの拳を掴んでいた。


「あっ……今更だけど……強いんだね……」

「うん、アンタみたいに無鉄砲じゃないよ。
弱いくせに前に出ないでよ、危ないから」

「あ……ごめん……」

「……そんな顔しないでよ。
ありがとうって、感謝でいっぱいだからさ」


反対の手でクシャクシャと私の頭を撫で回す正輝。
加藤くんもクラスメートも。
皆、呆然と私たちを見ていた。

私とキミは何処へ行っても、何をしていても。
常にこんな感じだ。

マイペースというか、なんというか。

他の人から見れば驚く事かもしれないけれど。
私たちからしたらこれが普通なんだ。


「ああ、それとリーダーさん」


急に正輝は視線を加藤くんに向けた。


「カンニングは悪い事だけどさ、やっている事はアンタの方が卑劣だから」


正輝は冷たい目でそう言い放つと、勢いよく加藤くんの腕を振り払った。
それから視線を私に戻す。


「和葉も言いたい事あるなら言えば?」

「……うん」


唐突だったけれど、凄く有難かった。
だってまだ伝えてない事があったから。
そう思いながらクラスを見渡した。
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