嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「あのさー……アンタさ……」


教室を出て廊下を歩いていればキミは小さくタメ息を吐いた。
何かと思ってキミを見上げようとすれば後ろから大きな声が聞こえてくる。


「白石!一ノ瀬!」


私たちの名前が呼ばれた事に驚いて。
2人で同時に足を止めてしまう。
キミと顔を見合わせて、一緒に後ろを振り向く。
そこにいたのは。


「山本くん!?」


上下に肩を動かしながら呼吸を整える山本くんだった。
驚く私をよそに、正輝は繋いだままの手を少し引っ張る。
そして、自分の後ろに私を隠すと不機嫌そうな声を出した。


「なに?何か用?」

「え?あ、ああ用って言うか……。
えっと白石にも話したいんだけど……」

「……聞こえるからこのままでいい」


山本くんが気まずそうに苦笑いをするけれど。
正輝は全く気にしていないみたいだった。
私は少し驚きながらも呆れた様に笑う。
キミの小さな独占欲が垣間見れて少し嬉しいんだ。
そう思っていれば山本くんは、仕方ないと言った様に口を開いた。


「2人ともありがとう!!」

「……」

「……」


いきなり頭を下げる山本くん。
私も正輝も呆然としながらその頭のてっぺんを見つめていた。


「……あのさ」

「は、はい」


山本くんは恐る恐る顔を上げながら声を出す。
思わず敬語になってしまったのは彼がほんの少しだけ怒っているのが分かったから。


「何で!?何でシカト!?」


顔を上げた瞬間、叫びだす山本くん。

5時間目が始まって、静かになった廊下に彼の声が響き渡った。
< 287 / 336 >

この作品をシェア

pagetop