嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
お弁当を食べ終わってお昼休みが終わろうとしていた時間だけど。
正輝は一向に立ち上がろうとはしなかった。
お弁当箱はきちんと片づけてあって、いつでも教室に戻れるはずなのに。
キミはずっと空を見上げている。
声を掛けるのも躊躇ってしまうくらい、哀しそうに見えた。


「……正輝」

「ん?」


こっちを向く事はなかったけど、返事だけは返してくれるみたいだ。
キミの哀しそうな顔は見たくないけれど、私にはどうしようも出来ないから。


「教室に戻らないの?」

「……戻りたくないから、行けない」


ハッキリと言い放った正輝。
でも、その言葉に違和感を感じた。

“戻りたくないから、行かない”
これだったら分かるけれど。

“行けない”ってどういう事?

ただの言い間違いかもしれないのに、どうも素直に納得が出来なかった。

でも聞くことも出来なくて。
『そっか』って言って口を閉ざした。
どうしようか悩んでいれば、空を見上げていたキミは顔だけを私の方に向けた。


「和葉は戻らないの?」

「私は……」


一瞬だけ迷ったけれど彼を1人にしたくなくて。
ゴロンとその場に寝転んだ。


「こんなにいいお天気だから私もサボっちゃおう!」

「そう」

「うん、一緒にいていい?」

「別にいいけど。そういうの許可なんて取らなくていいし」


プイッと顔を逸らす正輝。
だけどその顔は少しだけ紅く染まっていた。

それが可愛くてクスリと笑えば、正輝は眉を顰めて悪態をつく。


「笑うな馬鹿」

「ごめん、可愛くて」

「か……可愛いって……。
……変な事を言うな馬鹿」


口は悪いけれど、顔は紅く染まったままで。
益々と笑みが零れてしまう。
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