嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……あのさー……」

「ん?」


私は立ち止まってキミを見上げた。
正輝は首を傾げながらも歩みを止めて私を見ていた。

交わる視線。

言いかけた言葉を呑みかけるけれど。
頭を振ってキミを見つめた。


「さっき、キミが教室に来てくれて助かった」

「え?」

「化け物とか嘘つきとか。
あんなモノをいつまでも聞いていたくなかったから。
だから……ありがとうっ……」


素直にお礼を言えば正輝は少し黙り込んでしまった。

そして数秒後にクスリと笑われる。


「どういたしまして」


正輝の笑顔にホッとしていればすぐにそれは身震いに変わる。
だって、正輝はまた怒った時の笑い方をしていたから。


「なーんて言う訳ないでしょ?
何1人で背負い込んでいる訳?
2人で闘うって約束したよね?」


マシンガントークを披露する正輝に引き攣った顔で頷く。

確かに約束した。
と、言うより私が言いだした事だ。

苦笑いを浮かべていたけど。
すぐにそれは顔から消えていく。


「ごめん」


素直に謝れば、正輝は1度だけ深くタメ息を吐いた。


「もういいよ。
それと……ありがとう……」

「え?」

「俺の為に自分の心の声の事を皆にバラしてまで証明しようとしてくれたから」

「正輝……」

「アンタは本当にあり得ないくらいの馬鹿だけど……。
そんな和葉に俺はいつも救われているよ。
……本当にありがとう」


キミの言葉に涙が出そうになった。
でもそれは哀しさから来たものではない。


「どういたしまして」


にっと笑いながらキミを見つめる。
そして2人で同時に歩き出したんだ。


「ねえ」

「あのさ」


キミと私は同じタイミングで口を開いた。
多分内容も同じなんだろうな、って考えながら言葉を続ける。


「闘いに行こうか。今度は2人で」


全く同じ言葉が2人の口から出た。
それに驚く事も無く私たちはある場所へと向かう。

さあ、終わりにしよう。
偽りの関係を。
そして、私たちの大切なモノを見つけに行こう。

ぎゅっと繋いだ手のひらからはお互いの決心が伝わってくる様な気がした。
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