嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
本物の家族へ
2人でやって来たのはいつもの海だった。
夕日が海に沈みかけようとしていた時、波の音しか響いていなかったこの空間に小さなエンジン音が落とされた。

緊張からか、ぎゅっと手のひらに力を入れるけれど。
それを解く様にキミは優しく私の手を握ってくれる。


「大丈夫、闘おう2人で」

「……うん」


深く呼吸を繰り返して。
海ではない方向を見つめた。
キミと2人で。
しっかりと手を繋ぎながら、真っ直ぐにある1点だけに視線を向ける。


「……」


大きく胸が高鳴った気がした。
でも、それは気のせいなんかじゃない。


「お兄ちゃん……」

「兄貴……」


私とキミは同じ方向を見て同時に呟いたんだ。
そこにいたのは、私とキミの兄。

大好きで、唯一の理解者で、大切な存在だった。

それでも、いつからか、どこからか。

きっと私たちは道を踏み外していたんだ。

そう、少し間違えてしまっただけ。
だから今日、私たちの道を1つに戻すんだ。

ゴクンと唾を飲んで歩き出す。

キミと手を繋いだまま、真っ直ぐに私たちの大切な人の元へと。


「……和葉……」

「……正輝……」


それぞれの兄から出た名前。

哀しみと怒りを噛みしめた様に。
憎しみと切なさを混同させた様に。

でも2人とも、苦しそうに見えたのは私のエゴだろうか。

ぎゅっと唇を結んで。
ただお兄ちゃんたちを見つめた。
< 293 / 336 >

この作品をシェア

pagetop