嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「そう言えば何で教室に戻りたくないの?」


ふと浮かんだ疑問を口に出す。
正輝は『んー』と唸りながらも答えてくれるみたいだ。


「だって、あそこは煩いから」

「煩いって……女子たちの事?」

「それもあるけど、全体的に煩いって言うか。
……とにかくあの場所にいたくないんだよね」


寝転びながらジッと座っている正輝を見つめていれば、またあの哀しそうな顔をしていた。
きっと正輝も何かを抱えているんだ。
それは自分でも気が付かないくらいにキミの心を苦しめている。
何とかしてあげたいけれど、私に出来る事なんて限られていて。
でも、力になりたくて。
考え抜いた揚句、私は小さく口を開いた。


「そういう時はさ、ココに来なよ」

「……え……?」

「ココって意外に穴場スポットなんだよ。
入学してからずっとこの屋上に来てるけど、殆ど人なんて来ないし!
4月に1人か2人見ただけ!」

入学したばかりの1年生が迷い込んできたんだ。
錆びてる、汚い。
散々、文句を言って直ぐに出て行ったけど。


「だから、ココは私のお勧めの場所!
喧騒の世界から切り離してくれる数少ない場所」

「……喧騒の世界……」


驚いた様に目を丸める正輝に『あっ』と言葉を付け足した。


「私はいるかもしれないけど……。
嫌だったら遠慮なく言って!正輝に譲るからさ!」

「……別にアンタは嫌だとは思わない。
……和葉は煩くないから」


フワリと笑ったキミ。

それと同時に優しい風が私の頬を撫でた。

キミの茶色い髪がサラサラと風に揺れて。

とても綺麗に見えた。

でもその事を口に出す事なく、胸の中に閉じ込める。

今のは私だけの秘密。
小さな、でも私にとっては大きな、大切な秘密だ。
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