嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
お父さんは私に期待をし始めたんだ。
最近、テストで学年2位のポジションを連続で取り続けてきた。

だから、それをキッカケにしてお父さんの中では膨れ上がってきたんだ。
自慢したいという想いが。

だけど私が学校で問題を起こしているという事を耳にして。
自分の思い通りにいかない私を怒っているんだ。

もし、私が学年2位なんて取らなければ。
お父さんは私が学校でどんな事をしていようが口も出してこなかっただろう。

今、漸く分かったんだ。
お兄ちゃんがさっき言っていた言葉の意味が。

お父さんは私たちを見ているんじゃない。
私たちが頑張って手に入れた功績を見ているんだ。


「まあまあ、お父さん。イイじゃないの。
和葉は元々勉強が得意じゃないし、順位が上がった事を褒めてあげれば。
(この人は自分が頭がいいからって他の人にもそれを求め過ぎよ。
和翔の時だってそうだった。まあ、あの子は成績も良くて運動神経も良くて、外見もいいから自慢話には丁度良かったけれど)」


お父さんだけじゃない。
お母さんだってそうだ。
優しい笑顔を振りまいているくせに。
結局はお父さんと同じじゃない。
無意識にギリギリと歯が食いしばっていく。
もう、駄目だ。
なけなしの理性が切れそうになった。
でも、必死で堪える。
ココで私がキレてしまえば家族がバラバラになってしまう。
そんな感じがしたんだ。


「……あっ……」


思わず声が漏れた。
隣にいたお兄ちゃんにも聞こえないほど小さい声。
だけど、私は大切な事を思い出したんだ。

バラバラになってしまえばいい。
こんな事で崩れる家族なら。
偽りでしか繋がっていない家族なら。
そんなモノいらないじゃない。

分かっていたはずだった。
でも、実際に行動に起こさなかったのは。
偽りだろうが、大切な家族だったから。

でも、もういいんだ。
我慢しなくたっていいんだ。
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