嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「母さんは甘いよ、和葉はもっと上を目指せる子なんだ。
(お前の血が入っているせいで、和葉は中途半端な子になってしまったんだ。
大体、お前の育て方も気に入らん!家に入らず仕事ばかりで碌に子供たちの面倒も見ていない。だからこんなに出来損ないの子たちが出来たんだ)」


頭の中に響く声に思わず笑ってしまった。
もう、本当に駄目だった。
姿勢を正す気力もなくて背もたれに背中を預けて小さく笑い続ける。
不気味に笑う私をお父さんたちは目を丸めて見ていた。


「和葉?(何で笑っているのよ)」

「大丈夫か?(不気味な奴だ……)」


心配そうな顔で私を見つめているのに。
心はちっともそう思っていない。


「(もうっ……こんな家族嫌だっ……)」


ふいに頭に響いたその声に私は隣を見た。
そこには頭を抱えて震えるお兄ちゃんがいた。
さっきのお父さんの態度で、昔を思い出したのだろう。
そう思ったら、もう止まらなかった。


「……私たちは道具なんかじゃない」


ボソリと呟いた言葉はこの空間を凍りつけるには十分だった。
それでも私が口を開き続けたのはお兄ちゃんの泣きそうな顔を見たから。


「お父さんやお母さんが自慢をする為の道具なんかじゃないの!
どうしてそんな目でしか見れないの?どうしてちゃんと愛してくれないのっ?」


1度口に出してしまえば。
次の言葉はすらすらと出てきた。
今までよく我慢出来たと感心するくらいに。


「お兄ちゃんがプレッシャーでこんなに苦しんでいたのに。
お父さんたちは自分の事ばかりを押し付けた!
自分の思う通りに行かないとすぐに怒って。
でもそれはお兄ちゃんの為じゃなくて全部自分の為でしょ?」

「ちょっと……落ち着きなさい!和葉!」

「そうだぞ、俺たちはそんな事を言っていないだろう?」

「言っているじゃないっ……!」


噛みしめる様に言えばお父さんたちは驚いた様に目を丸めた。
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